できることと、やれることは違う。給与制度に潜む”机上の空論”

できることと、やれることは違う。給与制度に潜む”机上の空論”

給与計算をしていると、時々、不思議な制度に出会います。

もちろん違法ではありません。

計算もできます。

給与ソフトにも設定できます。

理論上は成立しています。

でも、その給与項目を見た瞬間に思うのです。

「なんでこうなったんだろう?」

と。


例えば、

・特定の人だけにしか該当しない手当

・似たような内容なのに別々に存在する手当

・締日や支給日に独自ルールが混在している給与体系

・計算式は複雑なのに支給額は数百円しか変わらない制度

そんな制度を見るたびに考えます。

これ、本当に必要だったのかな。


さらに深掘りすると疑問は止まりません。

なぜこうしたのか。

誰が提案したのか。

誰も止めなかったのか。

導入するときに運用面は検討したのか。

将来の引継ぎは考えたのか。

本当に従業員のためになっているのか。

そして最終的に、

「なぜ整理する方向ではなく、増やす方向へ進んだのだろう」

と思ってしまいます。


給与計算の仕事は、計算することだけではありません。

制度を理解し、

勤怠を確認し、

変更点を把握し、

従業員に説明し、

担当者が変わっても継続できる状態を維持する。

そこまで含めて給与計算です。

だから制度が複雑になるほど、負担は確実に増えていきます。


時々、

「社労士事務所に給与計算を委託しているから大丈夫です」

と言われることがあります。

確かに計算はできます。

給与計算のプロですから。

しかし、それは問題の本質ではありません。

プロが計算できることと、良い制度であることは別の話です。


給与制度は、

作ろうと思えばいくらでも複雑にできます。

手当を増やすこともできます。

計算方法を分けることもできます。

例外ルールを追加することもできます。

ですが、そのたびにミスが発生する可能性が高くなります。

説明も難しくなります。

引継ぎも大変になります。

そして制度を理解している担当者がいなくなった瞬間に、

誰も全体を把握できなくなることがあります。


実はこうした制度の中には、

法律上の正しさだけを優先して設計されたものも少なくありません。

法律には詳しい。

理論も理解している。

しかし実際に毎月給与計算を回す現場を知らない。

すると、

理論上は完璧な制度が完成します。

ところが実務では、

毎月確認事項が増え、

入力箇所が増え、

担当者が苦労し続けることになります。


もちろん制度設計を行った方にも考えがあったのでしょう。

当時は必要だったのかもしれません。

ですが制度は作ることが目的ではありません。

運用するために存在します。

どれだけ立派な制度でも、

現場が疲弊してしまうのであれば見直しの余地があります。


私は給与制度を見るとき、

いつも考えることがあります。

その会社の担当者が5年後も理解できるだろうか。

担当者が退職しても引き継げるだろうか。

社労士がいなくても説明できるだろうか。

もし答えが「難しい」なら、

どこかに改善の余地があるのかもしれません。


給与制度は難しく作るためのものではありません。

従業員に分かりやすく。

担当者が管理しやすく。

ミスが起こりにくく。

そして長く運用できること。

本当に良い制度は、意外とシンプルです。

毎月給与計算をしている立場からすると、

複雑な制度を見るたびに、

「これ、本当に必要だったのかな」

と考えてしまいます。

そしてその後に続く言葉は、たいてい同じです。

「もっとシンプルにできなかったのかな。」